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倒壊家屋の瓦礫や、倒れた重量家具の下敷きになるなど、長時間体を挟まれた人が、救出当初は比較的元気そうにもかかわらず、突然容態が悪化し亡くなってしまう事があります。これが、阪神淡路大震災以降、知られる様になったクラッシュ症候群です。 原因と適切な処置を知っていれば、一般市民でも命を助け得るかもしれないだけに、いざという時に悔やむ事がないよう、事前に正しい知識を得ておきたいものです。 突然死をもたらすクラッシュ症候群−なぜ?
クラッシュ症候群は、古くは、1940年のロンドン大空襲以降、主に戦災や自然災害の場で、また、事故や労働災害などの場面でも起こりうるものとして研究されてきました。しかし、日本における世間一般の認知は遅く、1995年の阪神淡路大震災を契機に注目され、2005年のJR福知山線脱線事故での、機動的連携の取れた医療活動が、社会の耳目を集めたのは記憶に新しいところでしょう。 クラッシュ症候群で突然死に至る過程 クラッシュ症候群は、挫滅症候群とも言います。瓦礫等で挫滅した筋肉から発生した毒性物質が、救出による圧迫開放で血流に乗って全身に運ばれ、臓器に致命的な損害を及ぼし、死亡その他重篤な症状になるものです。クラッシュ症候群は、おおよそ以下の仕組みで、心臓と腎臓への多臓器不全をもたらします。
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クラッシュ症候群の簡単な見分け方 上に挙げた通り、クラッシュ症候群は一刻も早く医療処置を受けるべき致命的状態です。それだけに、救出前から周囲の一般市民により、兆候を見分けて早めに判断を下さねば、助かる命も助かりません。クラッシュ症候群の兆候には、以下の様なものがあります。
上記は、一般市民でも容易にわかる兆候です。もし上記の兆候が見られたら、直ちに、災害拠点病院か血液透析ができる病院へ搬送しましょう。クラッシュ症候群であれば、輸液・薬物投与・筋膜切開・血液中の有害物質の透析除去を必要とする上、被災地外の高次医療機関への広域医療搬送を行う場合もあります。避難所や応急救護所、手近な病院へ運ぶ程度では対処できないのです。 |
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市民ができるクラッシュ症候群への応急処置 クラッシュ症候群は一刻も早く医療処置を受けるべき状態です。それだけに、救出前から周囲の人により、兆候を見分けて早めに応急手当を施さねば、助かる命も助かりません。前項の兆候が見られ、クラッシュ症候群が疑われる人に行える応急処置には以下のものがあります。
一刻を争うクラッシュ症候群では、医療機関に運ぶ前から、そばにいる人で応急処置をする必要があります。一般市民に医療行為はできないとはいえ、助かるかもしれない命を守るために、以下の代替的な応急処置を行う事ができます。 1.可能なら瓦礫に挟まれているうちから応急処置を始める 2.大量(1リットル以上)の水を飲ませる(経口保水) 3.挫滅部位より心臓側へ止血帯法を行う(駆血処置) 4.直ちに災害拠点病院か血液透析可能な病院へ搬送 心肺蘇生などの救命法は、クラッシュ症候群の根本処置にはならない 命を助ける救命処置として、心肺蘇生やAED(自動体外式除細動器)による除細動(電気ショック)といった救命処置を行うのが一般常識です。筆者自身、自治体の応急手当指導員として、救命講習の場でそれを教えてもいます。しかし、それはあくまで、平時の緊急事態として最も可能性が高い心原性病院外心停止での話。災害等でのクラッシュ症候群の場合、それでは根本的な処置にはなりません。 心肺蘇生やAEDでの除細動といった救命処置は、脳をはじめとした臓器を生かす最低限の生命維持に必要不可欠です。しかし、上記「突然死をもたらすクラッシュ症候群−なぜ?」で説明した通り、その特徴ゆえに生命の危険は依然として残ったままです。助け出した人が心肺停止状態でない限り、心不全・腎不全を引き起こす原因を軽減する事の方が、命の危険を減らす根本処置に繋がります。 |
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効果とリスク−賛否が別れる クラッシュ症候群への止血帯法 止血帯法とは?−なぜ行う?
止血帯法は、ケガや大量出血部位から心臓側を縛って(緊縛して)血流を遮断する、本来は外出血コントロールもしくは止血処置の1つです。クラッシュ症候群が疑われる傷病者には、これを応用して用いる事で、挫滅部位を全身血流から隔離。致命的影響をもたらす有害物質の心臓や腎臓への到達を阻止する阻血(駆血)処置として行います。 クラッシュ症候群への処置として行う止血帯法
(胴体や首はもちろん不可、脛や前腕部も骨の構造上、有効な緊縛が困難) |
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教えなくなった止血帯法−目的と指導ガイドラインの変更 止血帯法は、従来、自治体主催の救命講習や日赤救急法講習会等の場において、平時のケガ・外出血への止血法の1つとして教えられてきました。元々救命講習は、平時の緊急事態(病院外心停止や受傷・窒息)における救命率向上を目的に、救急行政の一端として実施されています。そのため、止血帯法はもっぱら平時の外出血への止血法として扱われるのみで、災害時の救命でも役立つ場面がある事を教わる機会がありません。結果的に、駆血として行うクラッシュ症候群への止血帯法は、救急行政と防災行政の狭間で宙に浮いた状態にある。というのが、応急手当指導員として数年間救命講習を教えてきた実感です。 また、救急医療や救命講習カリキュラムの基となる「日本版救急蘇生ガイドライン」の2005年改訂(G2005)以降は、止血目的での止血帯法そのものも教えなくなりました。「市民による有効性については」学術的に確立された「根拠(エビデンス)不十分」なので「推奨しない」と変更されたからです。現在、外出血コントロールとしての止血法は、直接圧迫止血法のみが推奨されています。 筆者自身も、一般市民が行う上での有効性やリスク対効果を踏まえると、外出血への止血目的での止血帯法は妥当ではないと認識しています。しかし、クラッシュ症候群への処置に応用できる、止血帯法の体験機会そのものが、現在ではほぼ失われてしまったのは惜しい限りです。 賛否が別れる止血帯法−リスクの存在を認識しておく 止血帯法を論じる上で、避けて通る事ができない点として、デメリットも大きい点を最後に強調しておきます。最悪の場合「命を失うか、縛った部分の手足を失うか」という究極の選択が迫られる場合すらあり得ます。 どんな場合にせよ、止血帯で緊縛する行為は筋肉損傷・細胞の壊死、神経麻痺や損傷・知覚異常などのリスクが生じ得ます。医療現場では、血圧計の原理で圧力を確実に維持できるターニケット(駆血帯)を使いつつ、緊縛時間の管理も行うなど、危険を最小限にするための管理態勢が整っています。しかし、訓練経験の乏しい一般市民があり合わせの資機材で行う時、確実性に加え安全面でも劣ってしまいます。 クラッシュ症候群での阻血として止血帯法を行う場合、メリットに加えてこれらのデメリットも勘案して決断を下す事が必要です。市民や自主防災関係者に、クラッシュ症候群への止血帯法について教える際は、本ページで述べた効果とリスクの両面について周知した上で、手技を確実に教えるべきでしょう。
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